自由が丘MCクリニック 医師:大谷伸久

豊胸後の慢性的な痛みと皮膚の感度が鈍くなることはよく知られていますが、メカニズムについてはよくわかっていません。

国際疼痛学会によると、「手術後の慢性的な痛みは、手術後3ヶ月以上連続または断続的な痛みを持続し、術前疼痛とは異なる」と定義しています。

慢性疼痛を発症する患者の可能性のある特徴を特定したところ、豊胸術後に慢性的な痛みを起こしやすいひとの特徴として、以下の報告がされています。

  • ①豊胸の結果にあまり満足していないこと
  • ②身体の特徴としては、若くて、背が低い

(Chronic pain in women after breast augmentation;European Journal of Pain 13 660-661)

豊胸後の慢性的な痛み、感度が鈍くなる頻度はどの程度なのか?を調べたデンマークの医学論文を紹介しましょう。

同じ施設で豊胸した142人にアンケートを依頼し、そのうち95人がアンケートに答えてくれた。豊胸術後平均31.8カ月で、平均年齢は34歳。

豊胸した患者の慢性的な痛みとないひとの特徴は、以下の項目で比較しています。

年齢、身長、体重、豊胸バッグの大きさ、拘縮、拘縮改善の手術の有無、経過期間を比較。

生活の質は、身体機能、社会的機能、身体的役割の制限、社会的役割の制限、メンタルヘルス、活力、痛み、健康全般を比較。

豊胸後の慢性的痛み

術後による痛みは44.2%、痛みは、ほとんど軽いものであるが、日常生活に支障が出るシビアな痛みは13.7%、長引く痛みのため豊胸手術自体を後悔している人6.3%。

アメリカでは、年間約30万人が豊胸術を受けており、そのうち28500人が痛みを伴うことになる。従来の研究でも、25~38%のひとに豊胸術後に痛みを伴うと報告されている。

慢性的な痛みと豊胸後の美容満足度の関係性

慢性疼痛患者において豊胸の美容満足度は低く、豊胸の結果に満足していない人は、満足している人に比べて痛みが長引く傾向にある。

慢性疼痛患者は、疼痛のない患者より、身体的、精神的健康に関する報告された生活の質は劣っていた。

若年者は、痛みのリスクが高くなると報告がいくつかある。今回の研究からは、痛みのない人に比べると、慢性的な痛みが続くひとは若い人が多かったが、これも統計上の有意差はなかった。このような結果は、対象群が少ない年齢にもばらつきがあったからだと考えられる。

豊胸した人の身長と痛みの関係がある?

背が低い人にも、術後の痛みが長引くという報告がいくつかされているが、今回の研究からは、身長、体重による痛みの要因は見いだされなかった。

豊胸の手術方法によって痛みの場所が違う

大胸筋下に入れる場合は、乳腺下に入れるよりも痛く、その後も痛みが継続しやすいとされている。今回の研究では、大胸筋下、乳腺下で行った場合、術後の痛みに違いはなかった。(統計上、有意差なし)

※経験的には、大胸筋下は筋肉をはがすので、術後も痛みが長引きやすいひともいますが、乳腺下は、そのような人が少ないです。

カプセル拘縮も痛みの原因と考えられる。今回の研究では、カプセル拘縮していた人が5人いたが、本人自身はそれに気が付いていなかった。


乳房の側方に痛みを感じやすい


乳首を含めた乳輪付近も痛みを感じやすい

豊胸後の胸の感度低下を伴う痛み

75.8%(72 /95人)のひとが、胸の感度に変化を生じた。69.5%(66/95人)のひとが胸の感覚が鈍くなり、31.6%(30/95人)が胸の皮膚が過敏感になる。

総じて、86.3%の人が、日常生活で悩まされる程度に胸の感度が鈍くなった。 感度の異常と局所的痛みは、3,4,5番の肋間神経の損傷によるものとされている。

乳頭と乳輪は、3,4,5番の肋間神経前方と側方の領域を支配している。側方を支配している神経は、乳腺下のときに損傷しやすい。手術の失敗という訳ではなく、だれにでも起きうることを示している。

耐え難い感覚の異常と痛みは、豊胸術をすることにより起こりうる一般的なことである。これらの症状は、一見たいしたことのないように思われるが、35.6%がこの異常な感覚に悩まされているし、17.9%のひとは、皮膚が神経過敏(触ると痛いなど)になっている。

シビアな痛みを生じたひとは10%いて、6.3%のひとは、その痛みのために、豊胸したことを悔やんでいる。


典型的な胸の感覚が鈍くなる領域
乳輪からアンダーバストにかけて感覚が鈍くなりやすい。

乳輪付近も感覚が鈍くなりやすい


胸の外側も感覚異常をきたしやすい。

※コメント
日本の美容外科の本によると、乳輪付近の感覚異常の発生率は、15~20%と記載されている本が多いのですが、自分もそのような認識でした。痛みは、結構な頻度で訴えるひとが多い感じはしますが。

感覚の異常を訴えるひとが、この医学論文では75%と多く、この頻度は意外に多いのはびっくりです。この論文では、乳腺下と大胸筋下の比較はしているものの、豊胸バッグをどこから入れているかの記載がありませんでした。

海外では、アンダーバストから入れることも多いので、どこから入れているかよっても違いがでてくるのかもしれません。

いずれにせよ、豊胸手術をすると、手術の失敗の有無に関係なく、胸の感覚異常、痛みはある一定の頻度で生じることを、手術前に十分に理解した方がよいのでしょう。

豊胸バッグを取りたいという人に、「胸が大きくなって得したことも多いけど、胸の感覚がなくなってしまったのでセックスを全然楽しめなかった」と言っていたことはとても印象的でした。

【豊胸後の感覚異常に関する記事】
豊胸後の乳首乳輪の感度低下

豊胸バッグトラブルと合併症、シリコンバッグ除去を考えているひとへ

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☞今回は、この医学文献から
豊胸バッグ術後の慢性的痛みと感度低下
Persistent pain and sensory changes following cosmetic breast augmentaion
European journal of Pain 15 328-332